撤退判断は、「このまま続けるより、引き返したほうが安全で確実だ」と決める判断のことです。登山やツリークライミングでは、天候の悪化、体力の低下、装備トラブル、ルート不明などが重なると、事故につながりやすくなります。撤退は負けではなく、安全に帰るための立派な選択です。早めに決めるほど選べる手段が多く、危険も小さくできます。「迷ったら戻る」を基本に、客観的な基準を持って行動すると安心です。
説明
撤退判断(リタイア判断、撤収判断)は、アウトドアや高所作業における“最も価値の高い技術”の一つです。なぜなら、事故の多くは「引き返すべきタイミングを過ぎたあと」に起きるからです。撤退は精神論ではなく、情報整理と意思決定の問題です。撤退判断で重要なのは、事前に“撤退の条件”を決めておくことです。現場で疲れていると、人は都合よく解釈しがちです。たとえば「雲行きが怪しいけど、たぶん大丈夫」「あと少しだから」といった思考が働きます。これを防ぐために、時間のリミット(何時までにこの地点にいなければ撤退)、天候のリミット(風が強くなったら中止、雷の兆候があれば即撤退)、体力のリミット(足がつる、手が震える、集中できない)など、具体的に決めます。ツリークライミングなら、樹木健全度チェックで不安要素が増えた場合、支点が取れない場合、バークフリクションが大きくロープ操作が重い場合、なども撤退理由になり得ます。撤退判断は「単独の問題」より「問題の重なり」を見ると精度が上がります。たとえば、藪で遅れている(ブッシュワッキングで想定より進めない)+天候が下り坂+日没が近い、という重なりは危険度が急上昇します。このとき“まだ体力があるから”と続行すると、最後の下山で転倒、低体温、迷いが発生しやすいです。撤退の良いところは、早いほど選択肢が増える点です。戻る道が明るい、体力が残る、連絡が取れる、装備の余裕がある。逆に遅れると、戻るにも進むにも厳しくなります。だから撤退は「間に合ううちに決める」ほど賢い行動です。心理面では、撤退を難しくする要因がいくつかあります。サンクコスト(ここまで来たのにもったいない)、同調圧力(みんなが行くと言う)、達成欲(目標を諦めたくない)です。これらに対抗するには、判断を“外部化”するのが有効です。チェックリストや基準を紙やスマホに書き、基準に当てはまったら機械的に撤退する。これで感情に引きずられにくくなります。撤退後にやるべきことも大切です。なぜ撤退したかをメモし、次回の計画に反映します。撤退は経験値を増やす行為で、繰り返すほど安全と成功率が上がります。安全に帰ることが最終目的である以上、撤退判断は“成功の一部”です。


